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二つの系譜:エージェントとオントロジー

二つの系譜:エージェントとオントロジー

この章では、エージェントとオントロジーがどのような歴史をたどってきたかを見ます。講演の中心は、二つの言葉の歴史を覚えることではありません。それぞれが何を意味し、なぜ同じシステムで組み合わせられるのかを理解することです。

歴史は背景です。実際に設計するときは、エージェントの働きと、オントロジーが表すモデルを使います。したがって、まず二つの系譜を分けて説明し、最後に共通する設計上の接点を確認します。

1. エージェントの系譜

講演では、エージェントという考え方を初期の人工知能(AI)の思想家たちまでさかのぼります。その後、この考え方は、周囲を知覚し、次に何をするかを決め、実際に行動するシステムへ発展しました。ここでいうエージェントは、文章を返すだけの仕組みではありません。知覚・決定・行動という流れを持つ仕組みです。

例(補足):配達状況を調べるエージェント

以下は、この定義を具体化するための作成例です。

  • 知覚:利用者の「荷物はどこですか」という依頼と、配送ツールからの情報を受け取ります。
  • 決定:どの荷物を調べるか、また追加の確認が必要かを決めます。
  • 行動:配送ツールを呼び出し、得られた状況を利用者に伝えます。

この例で大切なのは、エージェントが入力を読んで終わらず、判断を次の行動につなげる点です。

2. オントロジーの系譜

もう一つの系譜は、哲学における「存在とは何か」という問いから始まります。講演は、アリストテレスの存在の種類やカテゴリーに関する考えを出発点として、その後の形式化へ進みます。ここでの歴史的な話は、アリストテレスのカテゴリーがそのままソフトウェアの設計図になった、という意味ではありません。似た問題、つまり世界にあるものを種類に分け、関係を整理する問題への関心が、後の知識表現につながるという説明です。

実務へつなぐ重要な定義として、講演はGruberによる1993年の表現を使います。オントロジーとは、**共有された概念化の形式的な仕様(a formal specification of a shared conceptualization)**です。つまり、ある分野に登場するもの、もの同士の関係、そして必要な性質を、明確な形で記述したモデルです。「共有」とは、個人だけが持つ単語のリストではありません。人やシステムが、同じ分野について同じモデルを参照できることを指します。

例(補足):図書館の概念化

図書館を対象にした作成例で考えます。

  • エンティティ(entity):本、利用者、貸出記録など、分野で扱うものです。
  • 関係(relationship):利用者が本を借りる、というつながりです。
  • プロパティ(property):本の題名や、貸出記録の日付など、ものが持つ性質です。

このモデルを共有すれば、「借りる」が本と利用者を結ぶ関係だと、人とシステムが同じように理解できます。これは講演の定義を説明するための例であり、講演が図書館の設計を提案しているわけではありません。

3. グラフデータベースと知識表現への橋渡し

オントロジーがエンティティ、関係、プロパティを記述すると、それをグラフとして表しやすくなります。グラフデータベースは、そのような項目とつながりを保存したり、たどったりするための仕組みです。一方、知識表現(knowledge representation)は、知識を機械が扱える構造で表す考え方です。講演は、オントロジーをグラフデータベースや知識表現へ自然につなげています。

ただし、オントロジーとグラフデータベースは同じものではありません。オントロジーは、分野をどう理解し、何を関係づけるかという概念モデルです。グラフデータベースは、そのモデルやデータを保存・利用する実装の一つです。この区別を保つと、「何を意味するか」と「どこに保存するか」を混同せずにすみます。

同じ理由で、哲学のカテゴリーとソフトウェアのエンティティも同一ではありません。哲学の議論は歴史的な出発点です。ソフトウェアでは、その分野に必要なエンティティ、関係、プロパティを、目的に合わせて定義します。歴史上のカテゴリーを、そのままデータベースの表やグラフのノードに変換する必要はありません。

4. エージェントに共有モデルを与える

この二つの系譜が交わるのは、エージェントに分野の概念化を与える場面です。エージェントが文章を確率的に生成したり、次の行動を計画したりするだけなら、その分野で重要なものや関係を一貫して扱えるとは限りません。オントロジーを共有モデルとして与えると、対象の種類、関係、性質を構造化して参照できます。その構造は、後の章で扱う推論や、エージェントの出力を確認するための土台になります。

なお、講演の記録には、初期AIに関係する歴史上の人名が断片的に聞き取られている部分があります。たとえば、ある名前は「Von Quine」のように表記されていますが、正確なつづりはこの資料だけでは確定できません。ここでは、特定の人名を断定するのではなく、「初期AIの思想からエージェントへ」という講演の歴史的な順序を保ちます。

要点

  • エージェントは、知覚・決定・行動の流れを持つシステムです。単に文章を生成するものとは区別します。
  • オントロジーは、ある分野についての共有された概念化の形式的な仕様です。言葉を並べるだけではなく、エンティティ、関係、プロパティを整理します。
  • アリストテレスから現代の知識表現までの歴史は背景です。哲学上のカテゴリーとソフトウェアのスキーマを同一視してはいけません。
  • オントロジーをグラフや知識表現と結びつけると、エージェントが扱う分野のモデルを明示できます。
  • その共有モデルが、後でエージェントの提案を推論し、ドメインのルールに照らして確認するための橋になります。
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