06

7:52 - 9:15

ボトムアップ・モデリングと既存語彙の再利用

この章では、ドメインの専門家が最初に全体を設計する方法とは別の、ボトムアップ・モデリング(bottom-up modeling)を見ます。講演者は、顧客の反応や活動を観察し、そこに現れるエンティティ(entity)と関係(relationship)を見つけて、オントロジーやグラフに加える方法を説明します。その後で、すでにある分類体系やオントロジーを再利用することを勧めます。

ボトムアップ・モデリングとは何か

ボトムアップでは、先に完成したモデルを決めません。まず、実際のデータ、やり取り、顧客の反応や活動を観察します。そこから、どのようなものが登場し、何と何が結び付いているかを整理します。見つかったエンティティと関係を、共有して使えるオントロジー、またはグラフに加えていきます。

ここでいう「加える」とは、データベースに自由なメモを追加することではありません。たとえば、ある反応をドメイン上の概念として表し、その反応がどの顧客や活動と関係するかをモデル化します。こうすると、後で人やエージェントが同じ意味を参照できます。

トップダウンとの違い

  • トップダウン:ドメインの専門家が全体を分析し、必要なエンティティ、プロパティ、関係を決めます。上から共有モデルへ向かいます。
  • ボトムアップ:実際の観察や活動から、役に立つエンティティと関係を見つけます。下から共有モデルへ向かいます。

講演者は、この二つのうち一方がいつでも優れているとは述べていません。違いは、モデルを作り始める方向と、語彙のもとになる情報です。専門家の分析から始めるか、観察された活動から始めるかを分けて考えることが大切です。

顧客の観察をモデルに変える

講演で示されるボトムアップの出発点は、「顧客の反応」です。元の説明はこの反応を具体的な業界や製品に結び付けていません。したがって、ここでは特定の顧客業務を勝手に想定しないようにします。観察された反応と活動から、関係するものと結び付きを取り出す、という点が中心です。

例(補足):あるサービスについて顧客が反応したとします。チームは、顧客、反応、関係する活動を別々の概念として考えます。そして、「この顧客がこの反応を示した」「この反応はこの活動に関係する」のように、必要な関係をグラフで表します。単なる文章の記録を、検索や推論に使える構造へ変えるイメージです。この例は理解のための作成例であり、講演者が特定の顧客ドメインを示したという意味ではありません。

既存の語彙を再利用する

次に講演者は、分類体系(taxonomy)やオントロジーを毎回ゼロから作らないように勧めます。すでに使われている語彙には、概念の名前だけでなく、概念同士の関係を表す考え方も含まれることがあります。それを調べて使えば、共有しやすい用語を得られ、過去のモデリング作業を重複して行わずに済みます。

分類体系、オントロジー、グラフは同じではない

  • **分類体系(taxonomy)**は、概念を分類したり、階層に並べたりするための語彙です。
  • **オントロジー(ontology)**は、共有する概念化を形式的に表すモデルです。エンティティ、プロパティ、関係、そして必要なルールを扱えます。
  • グラフデータは、そのモデルを使って表された実際の対象と、対象同士のつながりです。グラフデータベースは、そのデータを保存したり扱ったりする実装の一つです。

これは用語を区別するための補足です。講演者は分類体系、オントロジー、グラフを関連付けて話しますが、それぞれの形式的な違いを詳しく定義してはいません。したがって、名前が付いた語彙をそのまま完成したアプリケーション用グラフだと考えないでください。既存の語彙は、独自のドメインモデルを作るための出発点になり得ます。

講演で挙げられた既存語彙

講演者は、再利用できる例として次の名前を挙げます。

  • schema.org:既存の語彙の例として挙げられています。
  • FOAF:ソーシャルネットワークに関係する語彙の例です。
  • Dublin Core:研究論文や本を説明するための語彙の例です。
  • DBpedia:講演者が、Wikipediaのグラフに基づく検索・照会と結び付けて説明するオントロジーの例です。

WikipediaとDBpediaについての最後の説明は、講演者が示した例として受け取ります。今回の資料には、それを詳しく確認したり、技術的な仕組みを補ったりする情報はありません。ここで重要なのは、すでに整理された知識の語彙やグラフを利用できる、という発想です。

エージェントとのつながり

既存の語彙を再利用すると、エージェントに渡すドメインの文脈を、共有された形で用意できます。エージェントが顧客や活動について出力したとき、その出力を同じ語彙とグラフの考え方で確認できます。つまり、ボトムアップで得た観察結果と、既存語彙から借りた意味の枠組みが、後の検証の土台になります。

ただし、既存語彙を使えば自動的に正しいモデルになるわけではありません。自分のドメインで必要な概念や関係を表せるかを確認する必要があります。また、この章の説明だけでは、どの語彙をどのように組み合わせるかまでは決まりません。講演者の提案は、重複を避けながら、すでにある共有の表現を活用することです。

まとめ

この章の流れは、次のように整理できます。

  • 顧客の反応や活動を観察します。
  • そこに現れるエンティティと関係を見つけます。
  • それらをオントロジーやグラフに、意味のある構造として加えます。
  • schema.org、FOAF、Dublin Core、DBpediaのような既存の語彙を調べ、ゼロからの重複作業を減らします。
  • その共有された語彙とグラフを、後でエージェントの出力を確認するドメインの文脈として使います。

このボトムアップの方法は、現実の観察からモデルを育てる方法です。一方、トップダウンの方法は、専門家の分析からモデルを始めます。講演者は両者を対立させるのではなく、エージェントが扱う世界を明確にするための二つの入り口として提示しています。

100% スペースキーとドラッグで移動 | Ctrl/Cmdとホイールで拡大縮小