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トップダウン・モデリングと初期の記号AIの限界

この章では、ドメインの専門家が上から全体を見てオントロジーを作る方法と、その方法に関係する初期の記号AIの歴史を扱います。講演者は、過去のエキスパートシステムが規模を大きくできなかった経験を紹介します。その後、ニューラルネットワークへ向かった流れを、現在のエージェントとオントロジーを組み合わせる提案につなげます。

トップダウンとは何か

講演者が示すトップダウン(top-down)の手順は、次の順番です。まず、ドメイン専門家(domain expert)が集まり、対象の領域で何が起きているかを分析します。次に、重要なエンティティ(entity)を見つけて名前を付けます。その後、それぞれのエンティティが持つプロパティ(property)と、エンティティどうしの関係(relationship)を定義します。

これは、単にデータベースの表をいくつか作る作業ではありません。専門家が、その組織の領域をどのような概念で捉えるかを、共有できる形にするモデリングの手順です。つまり、最初に語彙と関係の枠組みを考え、その枠組みに沿って後のデータや推論を理解できるようにします。

購買の領域を例にする

講演者は、購買注文(purchase order)、顧客、顧客担当者を、モデルに含められるエンティティの例として挙げます。専門家は、たとえば「この購買注文はどの顧客に関係するか」「その顧客担当者は誰か」「各対象にはどのような情報があるか」を整理します。ここで重要なのは、これらが講演で使われた例だということです。すべての組織が同じスキーマを使う、という意味ではありません。

この整理によって、エージェントが扱う領域の構造が明示されます。たとえば「顧客担当者」という役割を、単なる名前の文字列ではなく、顧客と関係する種類のエンティティとして定義できます。すると、後でエージェントが提案した情報や操作が、その領域の考え方に合っているかを確認しやすくなります。これは、この章のモデリング方法から、講演全体の検証の議論へつながる点です。

記号AIとのつながり

講演者は、このトップダウンの考え方を、1980年代のエキスパートシステム(expert system)や記号AI(symbolic AI)の仕事と結び付けます。エキスパートシステムは、専門家の知識を明示的な規則や構造として表し、その規則を使って問題を解こうとするシステムです。ここで、トップダウン・モデリングは知識を整理する方法であり、エキスパートシステムはその時代のAIのアプローチです。両者は関係しますが、同じものではありません。

当時は、エキスパートシステムに大きな期待が集まり、投資も行われました。しかし、講演者の説明では、そのシステムは規模を大きくできませんでした。どの部分が、どの技術的な理由で失敗したのかについて、この講演の該当箇所では詳しく説明されていません。したがって、ここで確実に言えるのは、「規模を拡大できなかった」という講演者の報告と、その後にAI冬の時代(AI winter)が続いたという歴史の流れです。

この話は、形式的な知識モデルが役に立たないという意味ではありません。むしろ、知識を人間が上から整理して規則にするだけでは、十分な規模で動くAIを作ることが難しい場合がある、という注意です。講演者は、初期の記号的な方法を完全な歴史として説明しているのではなく、現在の設計を考えるための経験として紹介しています。

ニューラルネットワークへの移行

講演者は次に、ニューラルネットワーク(neural network)へ向かった流れを説明します。初期には、ニューラルネットワークも十分な規模にすることが難しかった、と述べます。その後、NvidiaとGPUが使えるようになったことが、ニューラルネットワークを大きく動かす現在のAIの流れにつながった、という高いレベルの歴史を示します。

ここでの説明は、正確な年代や、ある出来事が別の出来事を直接起こした理由を詳しく再構成するものではありません。日本の未来世界に関するプロジェクト、Nvidia、GPU、ニューラルネットワークへの移行について、講演の手がかりは圧縮されています。そのため、この章では、記号的な方法の規模の問題から、ニューラルネットワークを使う現在のAIへ移ったという、講演者の大まかな物語として扱います。

過去をそのまま繰り返さない

この歴史が、講演全体の提案を準備します。現在のエージェントは、ニューラルモデルの柔軟な生成能力を使います。一方で、オントロジーや規則は、領域の概念、プロパティ、関係を明示し、提案された結果を確認するために使えます。したがって、提案は初期の記号AIへ単純に戻ることではありません。ニューラルモデルと、記号的な構造を組み合わせることです。

この章の要点

  • トップダウン・モデリングでは、ドメイン専門家が領域を分析します。
  • 専門家は、エンティティ、プロパティ、関係を順に共有モデルへ整理します。
  • 購買注文、顧客、顧客担当者は、その手順を説明するための講演中の例です。
  • 初期のエキスパートシステムは期待と投資を集めましたが、講演者は規模を拡大できずAI冬の時代につながったと述べます。
  • 現在の方向は、ニューラルモデルの柔軟さだけに任せることでも、過去の記号システムだけに戻ることでもありません。オントロジーによる構造を組み合わせ、後でエージェントの提案を確認できるようにすることです。
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